「大学教授の時給」って…

先日の朝日新聞「働く人の平均時給2228円 09年、14年ぶり低水準」という記事を読んで気になったのは、その終わりにある、

職業・男女別では「大学教授・男性」の時給が最も高く、5985円。「医師・男性」が5708円、「パイロット・男性」が5608円、「公認会計士、税理士・男性」が4961円と続く。

という記述。
「時給」ってどういう計算で出た数字か分かりませんが、おそらく、収入を実質拘束時間(授業のコマ数プラス会議?)で割ったものでしょうか。そうしないと医師、パイロット、公認会計士を上回る数字が出るわけないですからね。
しかし果たしてこの数字に、例えば授業の準備のための時間は入っているのでしょうか? 学生の質問や進路相談に応える時間は入っているのでしょうか? もし入っていないのならば、大学教員組合関係者(組合以外の人もですけど)は、即刻、然るべき文句を言うべきですよ。少なくとも、もっときちんと労働実態を反映したデータを使ってほしい、と。
(そういえば非常勤で講義して貰う時給は、ちょうどこれくらいのような気がしますが、それは偶然の一致で、無関係なはず。もしも関係があるなら(カウントされてるなら)、非常勤講師組合みたいなところも、もっと怒っていいでしょう。)
こんな数字を出されたんじゃあ、最近の「とにかく自分たちより少しでも上のものは引きずり下ろせ」型の風潮を煽って、大学教員の給与をもっと下げろ、という世論を導き、結果的に大学教員の労働強化(労働環境悪化)になってしまいます。というより、それが真の目的ですか?と穿ってしまうような記事です。
今の私の場合、家族を食べさせるのに本当にギリギリの給与しか貰ってませんが、それでも私学だからきっとまだマシな方で、推測するに、国公立の職場にいる同世代・同職階の人達はもう少し厳しいと思います。(資産や他の収入源がある場合は別ですが)多くの大学教員(とくに若い世代)はギリギリの生活をしているはずです。しかも国公立大学では法人化以後、あからさまに労働強化が行われてきたにもかかわらず、経営側は今後もさらなる給与カットを辞さない勢いと聞き及びます。
そういうときに、こういう記事。現政権の思う壺ですよ。というより、これは何らかの「仕分け」の布石ですか? 私以上にショックを受けている人、憤慨している人がたくさんいるはずです。
国公立大学の中には、法人化の後、授業がない日でも出勤義務ができたケースがあると聞きますが、そういう職場での「時給」が医者以上ということが果たしてありうるのでしょうか。)
大学教員は一般的にイメージされる高額所得者や富裕層には該当しませんし、同じくサラリーマンとしてはるかに高給取りであるはずの放送・出版業界や広告業界、金融業界などがどうして出てこないのか、むしろ疑問です(というか答えは半分くらいは見えてますが)。
「大学教授」とあるので、もしかしたら准教授や講師は含まれておらず、年齢層も比較的高めの統計なのかも知れませんけどね。だとしたら、われわれ下の世代(20〜30代)にとっては、よりいっそう迷惑な記事ですね。大学教員の給与体系は、旧態依然とした不当な年功序列ですから。ただし私は、「年功序列を止めて能力給にすべきだ」というような経営側の「策略」には(それがもしあったとしても)のりませんがね。「足の引っ張り合い」が誰を利するかを考えれば、その胡散臭さが分かりますから。
いずれにせよ、おそらくはパフォーマティヴに不正確さをともなった、警戒すべき、アンチ・キャンペーン的な記事(あるいは調査分析そのものがそう)ではないでしょうか。医師だってパイロットだって、それぞれに言い分があると思いますよ。
私はマスメディアの味方でも敵でもないですが、こういう記事は世論に対する影響・印象操作の観点からみて良くないなと思います。現場の人間として内容(データ)にリアリティを感じないだけに、いっそうです。お金の話は私だってあまりしたくないですけどね。