英国への入国ビザについて
所属先でのレクチャーやら京都でのシンポジウム(ロンドンからSkypeで出演しました)やら引越やらが一段落しましたので、今日はイギリスへの入国ビザ申請について書きます。研究や仕事には関係ない話でスミマセン。
イギリスのビザ申請は、公開されている情報が少なく、謎に包まれているとの評判がありますが、実際、やってみるまで分からないことが多かったです。しかしそうした中、インターネット上の情報には大いに助けられました。正式な情報が少ない分、多くの方々が、手探りでやってみた成果をブログ等で報告・共有しています。それらへの恩返しの意味も込めて、かつ自分自身の備忘録を兼ねて、私も自分の経験を書こうと思います。ただしこの記述は、以下の三つの理由から今後の参考にならない可能性がありますので、ご注意下さい。またもしも誤った情報を含んでおりましたら、ぜひご指摘下さい。
・イギリスのビザ申請の制度は毎年のように変更されるので(この4月にもNHS(日本でいう国民健康保険)に関する大きな変更があったと、こちらに来てから知りました)
・私自身が経験していないこと(例えばAcademic Visitor Visaのような他の申請種別について)は分からないので
・私自身が経験したことでも、その意味や効果(やってよかったのかどうか、もっとよい方法はなかったのか)が後から振り返っても分からないものが多かったので
(1)ビザの種別について〜Academic Visitor VisaよりもTier 5を選んだ方がよい
まず今回私が申請・取得したビザはTier 5 (Temporary Workers) - Government Authorised Exchangeです。家族(妻と二人の子ども)は私の扶養家族(dependants)の資格で同種別のビザを取得しました。すなわち妻はTier 5 (Temporary Workers) Partner、子どもはTier 5 (Temporary Workers) Childになります。
一般に、サバティカル等で短期間(一年から二年程度)イギリスに滞在する日本人研究者はTier 5かAcademic Visitor Visaのどちらかを取ると言われています。本来、六ヶ月まではビザなし(観光目的)で滞在できるはずですが、研究者にはできるだけビザを取って入国させるよう英国政府から各機関へ通達が出ているらしいです。数年前にやはり一年間サバティカルでイギリスに行った勤務先の同僚は、後者を取得したそうです。今回の渡英にあたっては彼女から色々とアドバイスをもらったので、私も当初はAcademic Visitor Visaの取得を考えていました。しかし受入機関のイミグレーション担当者から、Academic Visitor Visaの有効期間は一年間(一年を超えられない)ということを聞いたために、その時点でTier 5を申請することに決めました。
というのも、日本で所得税の源泉徴収が課されない「非居住者」となるためには、「一年以上」国外に滞在する必要がある(それも今回初めて知りました)わけですが、その「一年以上」が厳密に何日間を指すのか、よく分からなかったからです(実は今もよく分かっていない)。ですので安全のため、ビザは「一年プラス数日分」欲しかったのです。しかしこれがどうもAcademic Visitor Visaでは無理らしい。同僚がAcademic Visitor Visaで一年間行ったときには、帰路で時間稼ぎをして(わざと乗り継ぎを悪くして)日本への帰国日を遅らせたそうです。他にも、イギリスから上海などを経由して日本に帰ることで時間を稼いだ、というケースも聞きました。皆さん、税金を逃れるために必死ですね(笑)。まあイギリスでもカウンシルタックスを払うわけですから、日本の住民税を回避したいのは当然です。二つの国でダブルで住民税を払うことなどできません。私も一人(あるいは大人だけ)で行くのだったら、そうした時間稼ぎの「裏ワザ」が使えますが、今回は子どもが一緒なので、空港や乗り継ぎであまり無理はしたくないなあと思い、Academic Visitor Visaは(Tier 5よりも取得が楽だと聞いていたものの)早々と諦めました。
でも結果的に今回はTier 5で良かったと思っています。私が両者のどちらにするか迷っていたとき、受入機関のイミグレーション担当者は、Academic Visitor VisaはTier 5に比べて「いくぶんインフォーマル」である、そして私がTier 5を申請する方が「あなたに対して、私たちはいっそう大きな手助けができる」と言っていました。それはどういうことか、その時点では分からなかったのですが、今は分かります。Academic Visitor VisaよりもTier 5の方が「正攻法」であり、可能ならば(以下で述べるCoSがもらえるならば)こちらを選択した方がよい、ということです。
Tier 5を申請する場合、受入機関(私の場合はロンドン大学ゴールドスミス校)からCertificate of Sponsorship (CoS) という書類をもらいます。受入機関が(たとえ給与は支払わなくても)この人の「スポンサー」になるという証明書です。CoSには11桁の番号が付いていて、それが英国内務省のデータベースに(おそらく)バッチリ登録されているという、高度にフォーマルかつパワフルな文書です。それに対してAcademic Visitor Visaを申請する場合、受入機関のイミグレーション担当者からの(おそらく、その時点では非公式な)レター(どういうものか私は見ず終いでしたが)をエビデンスにして、各自がビザ申請を行うことになります。「インフォーマル」とはそういう意味だと思います。
CoSは、発行までに時間と手間がかかっても、それさえ手に入れれば、ビザを手に入れたと同然と言われています。CoSが出た時点で、国家機関(大学)が認定するGovernment Authorised Exchangeの有資格者という「お墨付き」をもらったことになるわけですから、当然です。また後述のように日本側のビザセンター窓口で提出する書類も、Academic Visitor Visaの場合よりも少なくて済むと思われます(推測ですが)。
また聞くところによると、Academic Visitor Visaを申請するためにもらうレターの効力は発行日から一ヶ月だそうです(他にも、戸籍謄本や住民票など、ビザセンターに提出するあらゆる書類の効力が一ヶ月という説が有力ですね)。ところがこれに対して、CoSの効力は三ヶ月あります。書類の中にきちんとexpiry dateとして発行日から三ヶ月後の日付が明記されています。三ヶ月あれば、万一、申請に手間取ったり、ミスして再申請せねばならないような場合でも、余裕があります。逆に「発行日から一ヶ月」というリミットは、少し油断すると(書類の準備に手間取ったり、肝心のレターの到着に時間がかかったりすると)過ぎてしまう気がして、心配です。
CoSは個別の番号によって(おそらく)英国内務省のデータベースと紐付いている書類なので、レターと違い、それ自体がオリジナルである必要がないことも、メリットです。受入機関のイミグレーション担当者からメールの添付書類として届くPDF書類をそのままプリントアウトして、ビザセンターに持っていけばよいだけです。なお私は届いたCoSの内容に一部誤記があり、それを指摘して即日再発行してもらいました。レター(の再発行)であれば、こう簡単にはいかないと思います。
そして何よりも(上述のように)一年間の滞在期間の制限のあるAcademic Visitor Visaよりも、Tier 5の方が、出入国の旅程を組む上ではるかに融通が利くと思われます。Tier 5の場合は(通常の労働ビザと同様に)所属機関での活動期間の前後に一週間ずつくらい、滞在が認められます。今回の私の場合も(実際に必要なのは一年プラス数日ですが)一年プラス二週間の滞在許可が出ています。所属機関での活動期間は、受入手続のごく初期の段階でフィックスしているはずなので(私の場合も、九月にいただいた先方の学長からのレターにすでに日付が記載されていました)入国日や帰国日がそれにしばられるとなると、後々色々な問題が生じかねません(入国したい日にどうしても航空券が手に入らない、一年以上の国外滞在期間が満たせない、など)。
(2)ビザ関連手続きの時期について〜入国三ヶ月前にやっておくこと、三ヶ月を切ってからやること
イギリスの場合、入国予定日の三ヶ月前からしかビザの申請ができません。しかもその事実自体が、どこにも明記されていません。経験者から情報があったので、今回(今年)もそうかもと予想はしていましたが、受入大学のイミグレーション担当者から(しかもけっこう後になって)説明されるまで、確かな情報はありませんでした。
私の場合は、以下のようなスケジュールでした。
・受入大学のイミグレーション担当者にご挨拶を兼ねて連絡(10月下旬)
・Tier 5(Academic Visitor Visaではなく)での申請(すなわちCoSの発行)を希望する旨を伝える(12月上旬)
・CoSが届く(1月下旬)
・UK Visa & Immigrationのサイトでオンライン申請(手数料支払、ビザセンター訪問のアポイントメント)(1月下旬)
・ビザセンター(大阪)に行って手続きをして、パスポートを預ける(2月上旬)
・ビザが貼付されたパスポートが届く(2月中旬)
・日本出国およびイギリス入国(3月末)
ビザが届いてから出国まで一ヶ月半と、終わりがきわめて慌ただしかったです。三ヶ月を切ってからしか動けないとなると、どんなに頑張ったとしても、結局こんな感じでバタバタするのは仕方ないでしょう。
ポイントはCoSをできるだけ早くもらうことです。理想は入国まで三ヶ月を切ったらすぐにもらうことです。私の場合どういうわけか、イミグレーション担当者に「三月末に入国するあなたに、CoSを一月上旬に出すのは早すぎる。一月末に出します」と言われたので、それに従いましたが、一月初めにもらえていたら後のスケジュールがもう少し楽だったかなと思います。その辺も何が正しいのかよく分かりません。
(3)ビザ申請のための必要書類について〜銀行口座の残高証明は、いつの時点からの「過去90日間」かに注意
英国ビザ申請の必要書類をインターネットで調べると、大学(しかも学部時代から!)の成績証明書や学位証明書(およびそれらの英訳)など、膨大な書類が挙げられていて、正直準備を開始する前からゲンナリしました。一応ほぼすべて揃えましたが。大学院の成績証明書等は、先々のために、英語版を持っておいてもいいかなと思ったので、もしも今回使わなくても損はないだろうと思って集めました。でも結局それらは一つも必要なかったです。
一番困ったのは、Tier 5はかりにも就労ビザなので、英語力証明が必要という説を聞いたときです。
現在、英国ビザのための英語力証明試験はIELTSに一本化されており(2014年からTOEFLとTOEICは使えなくなった)これを受けるべきかどうか、悩みました。必要なスコアはそれほど高くないらしいのですが、勉強する時間がないし、そもそも試験(月に二度程度やっているらしい)を受ける時間がありません。
でも結果的にTier 5の取得には、英語力証明は不要でした。よくよく考えれば当たり前かもしれません。こちらはアカデミックビジターであり、研究計画や履歴書もすべて英語で書いて提出しているわけですから、その時点で就労のための基本的英語能力はクリアーしていると見なされているのかもしれません。これもよく分かりません。
[CoS発行時に必要だった書類(受入大学のイミグレーション担当者に送ったもの)]
・受入機関指定のアプリケーションフォーム
・パスポートのスキャンデータ(家族全員分)
・過去90日の銀行口座の残高証明書のスキャンデータ(一日たりとも規定の金額を下回っていないことを証明する。金額は年によって変わるし、扶養家族の人数によっても変わる)
・CV
・研究計画書(その要約がCoSに記載される)
[ビザ申請時に必要だった書類(日本側のビザセンター窓口で提出したもの)]
・UK Visa & Immigrationのサイトでのオンライン申請書類のプリントアウト(昨年まではAppendix書類は紙媒体で提出したようですが、今年はすべてオンラインで入力・提出できました)
・CoS(メールに添付されてきたPDFファイルのプリントアウト)
・過去90日の銀行口座の残高証明書(以上三点は私自身の申請用)
・家族全員分の戸籍謄本とその英訳
・家族全員分の住民票とその英訳(以上二点は家族の申請用。主たる申請者である私との扶養関係を証明するために必要)。
なお申請は四人分ですが、書類の提出は一部ずつ(とそのコピー)で済みました。しかもオリジナルの書類はパスポート返却時に戻ってきます(オリジナルとの照合後、コピーが正本として保管されるのでしょう)。
またもっとも注意が必要だったのは、銀行の残高証明書でした。
私の場合、オンラインでの申請を完了(その時にビザ発行の費用をカードで支払い、ビザセンターのアポイントメントを取る)したのが一月末で、大阪のビザセンターの窓口に行ったのが二月上旬でした。その間が一週間くらいありましたが、折悪しく、一月末の時点では「過去90日間に一度も規定の金額を下回っていない」ことが証明できたのに、二月上旬の時点では証明期間に数日間の空白ができてしまいました。私が証明に使った銀行口座は、残高証明書が一ヶ月に一度、発行される仕組みなので、こういうことがおきやすいのです。しかも、オンラインでの申請(完了)日とビザセンターでの手続き日のどちらが(そこから遡って90日間の残高を証明すべき)「正規の申請日」なのか、いくら調べても分かりません(割高な情報料と国際電話料金を払って公式の質問窓口に電話しましたが、よく分かりませんでした)。
仕方がないので念のため、ビザセンターでの手続き日から遡って90日を満たせるように、空白の数日間を対象に一日ごとの残高証明書を発行してもらいました(幸い二日分で済みました)。
これから申請される方は、銀行口座の残高(必要となる金額はさほど大きなものではありません)よりも「過去90日間」という点に注意を払った方がいいと思います。CoSの発行、UK Visa & Immigrationサイトでのオンライン申請、ビザセンターでの手続きと、三つの時点でその都度「過去90日間」の残高証明が必要です(少なくともそう考えるのが万全です)。とくに私のように、月に一度残高証明書が発行される銀行(最近はけっこう多いように思いますが)を使っている場合には「いつからいつまでの残高を証明する書類が、いつ手元に届くのか」を常に念頭に置きながら、手続きを進めなくてはなりません。そして空白期間が生じてしまった場合には、一日ごとの残高証明を日数分用意するという(私のとった)方法で切り抜けます。
なお私が使っている銀行は日本語でも英語でも残高証明書の発行が可能なので、日本語から英語に切り替える手続きを10月にしました。少し早いかなと思ってやったのですが、ビザの申請に使った残高証明書は三ヶ月分(11月から1月)プラス二日でしたので、結果的にはギリギリでした。英国のビザ申請を予定している場合は、早めに(他の準備に先んじて)この切り替え作業をしておくことをオススメします。英国のビザ申請では、当然、日本語の証明書にはすべて英訳(およびその英訳者の身元照会先)を付けなくてはなりません。銀行の残高証明書を英語で出してもらえば、手間と費用が大いに軽減されます。
なお今回私がお金を払って翻訳をしたのは、戸籍謄本と住民票の二点だけでした。翻訳はここにお願いしました。速いし安いし対応も丁寧でしたのでオススメです。他の会社では「このところ英国ビザ申請対応が立て込んできたので、10日くらいかかる」と言われましたが、ここでは「1日でできます」と即答されました。しかもすべてあわせて13,000円くらいと格安でしたし、サイトでは発行できないと断り書きが書いてあった領収書も発行してもらえました。次回も同様な機会があれば、ここにお願いすると思います。
(4)ビザ申請のための料金について
オンラインでの申請時に一人約37,000円、ビザセンターでの手続き時に「優先サービス」(標準よりも短期間で発行される)の代金として一人約18,000円払いました。しかしこれだけで四人で20万円以上かかってますね(今次の渡英のために一体いくらかかったのか、それを考えるとイヤになるので、努めて計算しないようにしているのですが)。優先サービスは要らない(お金がもったいない)気もしましたが、一日でも早くビザを受け取り、一日でも早く(すっきりした気分で)渡航準備を進めたかったので、申し込みました。
(5)その他
イギリスに限ったことではありませんが、ビザ申請の期間は、パスポートを預けることになります。その時期に海外出張などを入れることは当然不可能です。その他、国際免許証の発行やIELTSの受験等、パスポートが必要となる国内の案件も(出国間際には)多々ありますので、スケジュール管理は入念に。
オンライン申請の際、イギリスにおける連絡先(住所と電話番号)を入力しなくてはなりません。ホテル等の連絡先でもかまわないようです。またそれに関する証明が要求されることは最後までありませんでした。
航空機の手配の必要性に関しては「微妙」です。イギリスのビザ申請については、「ビザ申請時までに航空機を確保しておかねばならない(ビザセンターでチケットの提示が必要になる)」という説と「ビザを取得するまで航空機を予約してはいけない」という、それに真っ向から衝突する説が共存しています。本当に困ったものです(笑)。しかしオンライン申請では入国予定日(date of planned arrival in the UK)を入力しなくてはなりません。航空機を確保せずにその欄に日付を入力するのはかなり勇気が要ることです。
私の場合、ビザセンターの手続きに行った時点では、航空機を予約しているものの支払いはしていない状態でした。しかし上記の二つの説が並立していることは知っていた(そして対応に困っていた)ので、ビザセンターでのやり取りには多少警戒していました。ビザセンターでは受付の方が、まず初めに(私が持参したオンライン申請書類のプリントアウトの入国予定日欄を見て)「航空機チケットは取りましたか」と聞いてきました。それに続いて「はい、便は予約しました」「支払いはしていませんか」「いいえしていません、予約だけです」「そうですか」という「微妙」なやり取りがありました。もしもそこで「支払いも済んでいます」と答えたら、どうなっていたか…。分かりません。まさかそれだけで申請が却下されることはないとは思いますが、航空機のチケットを見せろ、とか言われていたかもしれませんね(一応、予約確認書を持参してはいましたが)。まあとにかく今回のビザ申請にあたっては、そうしたことが多すぎました。
次回は住居のこと、引越のこと、子どもの学校のことなどを書こうかと思っています。が、いつになることやら。
[2015.8.8追記]Academic Visitor VisaでSOASに滞在している日本人の話では、Academic Visitor Visaは区分としてはTier 2だそうです。多分ここにあるTier 2 (General) Sponsored Skilled Workersのことだと推測します。