新年のご挨拶

一年に一度更新するかどうかのブログに、時節のご挨拶も何もあったものではないですが、まあこのタイミングですので。皆様、本年もよろしくお願いします。
昨年は引き続き学内の役職に就き日々忙殺されていたことに加え、すべての研究発表を国外(イギリス、カナダ、ドイツ、ブルガリア、フランス)で行ったせいもあって(ちなみに内容は、最初の一回が音楽関係で、残りの四回はゲーム関係)、日本国内の学会や研究会にほとんど顔を出せませんでした。2014年は合計すると一ヶ月以上、日本を離れていた計算になります。そうなると国内にいる間も仕事がいつも以上に山積し、あまり外に出られませんでした。ご無沙汰してしまっている方々が多くおられますが、非礼をばお許し下さい。
その代わりと言っては何ですが(実際に「引きこもり」の最大の理由となっていた)本がもうすぐ出ます。絶対音楽の美学と分裂する〈ドイツ〉』(青弓社。私の四冊目の単著で、シリーズ「〈音楽の国ドイツ〉の系譜学」の最終巻となる第三巻です。

奥付の発行日は1月15日です。書店にもこの連休明けから並び始めると聞いています(Amazonでは25日となっていますが、これは当初の発行予定日)。私のところには先週末に見本が届きました。

ようやくそろった!とさっそくシリーズ全三冊を並べてみる。ダークな階調の赤、青、緑。装丁は『ヴァーグナーの「ドイツ」』以来、お世話になっている神田昇和さん。色の選択もお見事です。

2013年2月に第一巻を刊行したときに「一年以内で三巻完結させる」(不都合なエビデンスここに)と息巻いていたにもかかわらず、結局こんなに遅れてしまい、出版社と読者の皆様、他にも幾つかの方面にはたいへんご心配とご迷惑をおかけしました。博士論文を本にするお約束を交わしたのが2005年のことでしたから、はや十年が経ってしまいました。何より私の怠慢のせいではありますが、企画が当初予定よりもふくらんだことも遅延の原因でした。主題の性格上、議論を圧縮・単純化して、分かりやすい「お話=ストーリー」を提示する気にはどうしてもなれなかったのです(その辺りの思いは「あとがき」にも書きましたが)。正直、博士論文を元にして単著が四冊も書けるとは(というより、書くはめになるとは)自分でも思いませんでした。ですが、出版不況が叫ばれるこのご時世で、こうして書きたいことを書きたいだけ書かせていただけたことは、一研究者として身に余る幸せです。
もちろん三分冊にしたことにはメリットもあり、読者の皆さんに興味のある巻だけを読んで(買って)もらえるのはその一つかと想像します。前巻は「民謡」をタイトルに入れましたが、今回その位置にあるのは「絶対音楽」です。「絶対音楽」は言葉としてはそれなりに知られていても、その内実は多くの(日本の)読者にとって、けっこう謎に包まれていると思うので、この本が導入の手がかりになれば嬉しいです(この語を題名に含む日本語の類書は、これこれくらいでしょうか)。タイトルについては実は悩みました。十九世紀ドイツ音楽思想(とくに美学と歴史叙述)を包括的に論じているので、「絶対音楽」の一語でその内容を代表させると、時代的にも理論的にも「矮小化」になってしまうんですよね。でも偏りを承知で、一箇所に「重心」を置くなら、やはりこの語しかないだろうと思いました。実際には、むしろ「絶対音楽の時代としての十九世紀ドイツ」というこれまでの標準的歴史観を見直すために書いた本です。
対象となる人物や作品(固有名詞)は、全三巻のうちでもっとも「ポピュラー」だと思います。ベートーヴェンシューマンロッシーニブラームスといった巨匠達だけでなく、フィヒテシェリング、ホフマン、ヘーゲルといった哲学者・思想家達にもバンバン「特攻」してます。その分、本書が提示する議論や解釈には異論や批判の余地も大きいと思われます。怖いですが、避けられないことなので、読者の声をお待ちするしかありません。
とにもかくにも「人生の借金」(実際この十年間、わが家ではこの仕事がそう呼ばれてきました)をようやく返済し終わり、明日(今年)からようやく「前向き」に生きられそうです。これからやりたいこと、書きたいことが山積みです。
この本について、さる敬愛するセンパイから「吉田君が音楽学(会)に提出する卒業論文だね」と言われ、なるほどそう見えるだろうな、と思いました。でも実は、音楽関係の本(音楽史ではありませんが)を少なくともあと一冊は出す予定でおります。「足を洗う」のはそれを出してからになるかと思います(笑)。
ちなみにこの十年の間に、私は研究室の引越を二度、自宅の引越を二度、行ってきました。密かに恐れていた資料の散失も特になく、理想的な執筆環境をキープしながら最後までこぎ着けることができて、本当にホッとしています。あとはもう本もコピーも全部無くなってもいいや、というか欲しい人がいたらあげます(笑)というのは冗談にせよ、これを区切りとして、だいぶ大がかりに身辺(研究環境)の整理と再構築を始めていることは確かです。研究室にある『ニューグローブ音楽事典』全20冊を書架の棚から取り出して、書架の上に天井まで積み上げて、空いたスペースにアフォーダンスやインターフェース関連の本を詰め込んだり。この十年の間に、私の関心も持ち物も随分と変わってしまったことを実感しながら。
この十年間、色々とお誘いをいただきながら、新たな(単著の)出版企画を立てることを自分に禁じてきましたので、ようやくそれが「解禁」になったことが何よりも大きな変化です。エフォートを一点に集中されることができず、絶えず引き裂かれてきた、長きにわたる「二重生活」からついに脱しましたので、今後は「一点集中」「有言即実行」「言い逃れ無用」の精神で頑張っていきたいです。そんなわけで、これまで保留にしていたお話も、これから順次「リスタート」していきたいと思いますので、お心当たりのある方々はよろしくお願いします。まあまた同じことを繰り返して、「人生の借金」を背負わぬよう、しっかりと研究・執筆の計画を立ててからご相談・ご連絡せねばと肝に銘じていますが。
いずれにせよ「次の一歩」が、自分の今後の研究人生を左右する、とても大事なものになる気がしていますので、焦らず慌てず、じっくり取り組みたいと思います。自分では信仰していないとはいえ、世に言う「厄年」も明けた、2015年です。