『思想』シューマン特集ほか諸々

岩波の『思想』の最新号(シューマン特集)に「歴史の空白とジャンルの闘争」という論文を書きました。夏休み前半(この頃)に必死こいて書いてた「論文」(「原稿」ではなくて)です。今年における私の唯一の音楽学者としての仕事(ビートルズ論を除けば)になる予定。来年はゲーム方面はほどほどにして、音楽学方面をもう少し頑張ります(笑)。

『思想』2010年第12号 No. 1040
特集=シューマン生誕200年
思想の言葉(岡田暁生
シューマンの晩年様式(椎名亮輔)
歴史の空白とジャンルの闘争
 ――シューマンと《ベートーヴェン以後》のドイツ音楽(吉田 寛)
音楽新聞紙編集者としてのロベルト・シューマン
 ──「音楽場」の構築と支配(友利 修)
シューマンの《幻想曲》(作品17)とアラベスク(ジョン・ダヴェリオ)
ローベルト・シューマンの詩と内因(小林聡幸)
ロマン派の世代(チャールズ・ローゼン)
『思想』2010年総目次

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さすが『思想』だけあって、執筆陣も(自分はさておき)豪華絢爛。ダヴェリオ論文には訳者である堀朋平先生が詳細な註と解題を付けておられまして、それも一読の価値ありです。
岩波書店さんとお仕事をしたのは今回が初めてでしたが、編集者の方の実に細やかな仕事ぶりも含めて、さすがと感心させられる点が随所。著者としてまったくストレスを感じることなく実に気持ちよく刊行まで行き着くことができました。ありがとうございました。お世話になりました。これで何とか今年も年が越せそうです(笑)。
私の論文は、前から一度きちんと書いてやろうと思っていた「ジャンル論」(ルカーチ、ブルーム)と、いわゆる「歴史の終焉」論(ヤウス)を組み合わせたもの。この辺りの話は音楽専門の媒体&編集者からはウケがよろしくないだろうから、モチネタとしてずっと温存してたんだけど、今回ひとまず吐き出せて良かったです。その意味で思想的にハイブローな媒体での音楽特集というフレームは、私にとってたいへんありがたかったです。あと『思想』の読者層に(勝手に)配慮して、多少「煽って」も(むしろその方が)良いかなと思い、止せばいいのに(?)ジェイムソンなどまで持ち出しています。でもってお題がシューマンですからね。どんなアクロバティックなものになっているかは、読んでもらってのお楽しみ。あっ、もちろんジャンル論ですから、ポピュラー音楽研究(ファブリ、増田)もきっちりリスペクトしてますよ。
それにしても、商業誌なのに「抜き刷り」をもらえる(しかもタダで)のって、岩波の雑誌くらいですか。ある意味、「アカデミック」というのはむしろこういうことなのかなと。商業誌だけど、下手したらいわゆるアカデミック・ジャーナル(査読付き学会誌)よりも価値・権威がありそうだしな。査読誌(学会誌)/非査読誌(商業誌)のヒエラルキーを混乱させる好例かと。
博士論文提出のための条件として「査読誌論文三本」というのが一般的みたい(うちの研究科もそう)ですが、クオリティの確保・保証のためには「そのうち最低一本は岩波の雑誌に限る」としたら良いのではないでしょうか。もっともそんなことしたら、審査する教員の方が(私も含めて)かなりの部分アウトですが(笑)。

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先日ご案内したシネマ企画『挑発する女たち──アートの臨界』ですが、詳細が確定してチラシ(ダウンロードはココ)もできあがりました。京都近郊の方は、チラシの配布にご協力をお願いします!(最近はいつも持ち歩いておりますので、招待券もお付けし、いきなりお渡しするやも知れません。)
いろんなところが絡んでいる企画ですので、ネット上の情報もあちこちにありますね。
・人間科学研究所(立命館)はココ
・GCOE生存学(立命館)はココ
・京まなびネット(京都市)はココ
最小限の情報だけ繰り返すと、

公開講座 シネマで学ぶ「人間と社会の現在」
シリーズ7「挑発する女たち──アートの臨界」
会場:立命館大学朱雀キャンパス5F大講義室
*いずれも13:00開場、13:30開演、16:30終了予定
2011年1月29日(土)
マリア・カラスの真実』
対談:吉田 寛 × 松原洋子
2011年2月29日(土) 
『≒草間彌生わたし大好き』
対談:建畠 哲 × 吉田 寛
2011年3月5日(土)
『ファッションが教えてくれること』
対談:平芳 裕子 × 吉田 寛

です。
2月29日の草間彌生の回にご登壇いただく建畠さんですが、私がこの企画へのご協力をお願いした直後に、京都市芸大の学長に就任されるとの報道があって、私もびっくりしました。また一人、京都に、これも何かの御縁でしょう。
また近づいたらご案内します。来年だからといってたかをくくってるとすぐに来るんだろうなあ。いろいろ勉強しないと。

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最後にゲーム方面。
以前、ここで翻訳者を募らせていただいた、トランスレーション・スタディーズ(翻訳学)のアンソロジーに収録されるゲーム翻訳についての論文ですが、無事に翻訳者が見つかりまして翻訳も終わり(感謝!)、私ともう一人の方(感謝!)で校閲作業も進んでおり、来年早々にはみすず書房から発売されるとのことです。まあこの件に関して私は、編集者的な位置にあって、実質的には何もやっていませんが、ゲーム翻訳の研究は(トランスレーション・スタディーズそのものもですが)とても意義深く、(ポピュラー)文化研究全体にとってもメルクマールになると思いますので、刊行されたらここでもご案内します。
また私は非会員ですが、今回少し思うところあって日本デジタルゲーム学会の大会(芝浦工業大学、12月18日〜19日)をのぞきに行く予定です。関係者の方々、よろしくお願いします。お手柔らかに。
あと私が七月に主催したゲーム座談会ですが、これももうすぐ某誌で活字になります。今まさに、その入稿作業で死んでます。テープから起こされた原稿を「人様に見せられるレベル」にもっていく作業なわけですが、自分以外が喋った部分もチェックしている上に、量も膨大なので(全部で三時間以上になんなんという)死んでます。思い起こせば、この手の作業は大昔(学部生時代)に同人誌をやってた頃以来だなと。さらにはこの雑誌には、自分の研究論文も出さなくてはならないのですが、無い知恵を絞ってもやはり無い袖は振れないことが判明しまして、そこでも死んでます。座談会も論文もとっくに締切は過ぎているので、せいぜい刊行スケジュールに支障をきたすことがないように全力で頑張ります。本来それらが終わらないと師走に入れないはずなので、私の脳内ではまだ霜月です。その割にはどうも冷えるな(笑)。
では皆様、良いお年を。望むらくは忘年会等でお会いしましょう。