買ってもうた

デカイ買い物を二つしてもうた。
一つはアロイス・リーグルの最後の著作である『オランダ集団肖像画』の日本語訳(2007年、中央公論美術出版、定価35,000円)。新品同様のがネット上で10,000円で売っていたから思わず即買い。あと、うちの大学の図書館にないんだよね、コレ。それも動機の一つ。安く買えたのはいいのだが、自宅に置くにしても研究室に置くにしても、いかんせんデカイ&オモイのである。
大体、中央公論美術出版とか岩崎美術社の本とか、美術専門出版社の本は、どれも無茶苦茶高い上に、無茶苦茶デカイんですよ。これはもちろん、たったそれくらいの金と収納場所を惜しむような人間は美術(史)研究をするべからず、というメッセージです。日頃美術のカタログを見慣れてる(扱い慣れてる)人には何でもない大きさなんだろうけど、一般家庭にはデカすぎる。そのサイズに対応した本棚の段がない。あと必ず、重厚な箱(よく図書館では書類立て等として再利用されているのを見ます)に入ってるよね。あれにはちゃんと理由があって、あまりにデカくてオモいので、箱がなくて剥き出しだと、本を立てたときに「崩れる」んだよね。要するに箱が「支え」なわけ。図版がたくさんあるし紙質が良いから仕方ないが、もう少しコンパクトにできないかな、と思うオレみたいな狭量な人間は本来、買っちゃいけないわけ、そんな重厚な書物を。だからまるで、貧乏学生が高価な壺(その分、御利益は絶大)を騙されて買ってしまい、四畳半一間の下宿の真ん中にドーンと届いちゃって、さて今晩からどこで寝ようか、みたいな状態になっちゃうわけ。
近代人の目からみると明らかに「構図がおかしい」とされてきた16世紀から17世紀のオランダの集団肖像画(有名なところではレンブラント等)を網羅的に分析して、絵画の内的統一性と外的統一性という概念区分を新たに提起し、これらの絵画が内的統一性が持たないのは、そうしたジャンルにおいては統一が(画面の中でなく)外の視点(=近代的で個人化する以前の複数の観者)に求められていたからである、という衝撃的な結論を1902年のリーグルは導くのですよ、しかもフーコーなども読まずに(笑)。だから、有名な「視覚的−触覚的」の軸を導入した『末期ローマの美術工芸』(1901年)に負けず劣らず重要な本ですね、きっと。だから、後悔はしてません(自己暗示)。
とりあえず、すでにうちにあるゴンブリッチ『芸術と幻影』とこの本の他には、もう美術系出版社の本は買わ(買え)ないぞと誓ったのであります。まあ楽譜も判型は大きいけどね。だけど薄いし、箱もないよ。
で、もう一つはコレ。『ザ・ビートルズ・モノ・ボックス』(BOX SET)【初回生産限定盤】。9月9日発売。CD13枚組で39,800円なり。13で割ると1枚あたり3,061円。ん? CD一枚3,000円以上って、いつの価格ですか。昭和ですか。価格もぼってるし、「初回生産限定盤」というのがまたやらしいなと思って、販売予告・予約受付がだいぶ前から出てたのは知ってたんですが、「どうせ忙しい時期だから、買うの忘れて、後からは買えないからあきらめがつくだろう」と華麗にやり過ごそうとしたわけですよ(ちなみにステレオ版リマスターは通常販売なのでいつでも購入可)。ところが、発売時の騒ぎがニュースでも取り上げられたので(これ自体きっと販促ですよ)迂闊にも思い出しちゃって、発売後にAmazonの当該ページをたまに覗いてしまう往生際の悪さ。案の定、発売直後(予約でほぼすべて捌けたらしい)からプレミア価格が跳ね上がって、うわーこれは買えんわー、絶対あくどい業者だろこれーと、それでもAmazonの当該ページをたまに覗いてしまう往生際の悪さ。そんななか、海外版は増産されるとの噂が流れ、日本のAmazonでもいつの間にか(こっそり)新品が定価で注文可能に。それを発見した段階で理性がとんで、注文しちゃいました。しかも、ついでにステレオ版リマスター(『ザ・ビートルズ・ボックス』)の方も。だいたい、こんなベーシックなものを初回生産限定っていわれたら、予約が殺到するに決まってるし、かりにそこを華麗にスルーできても(今回の私のように)、売り切れ(=プレミア化)直後に急遽増産しましたと言われたら、その段階で(今回の私のように)絶対買っちゃうだろ! 高くても! 鬼! 「限定」ならば「増産」するな! その二つの組み合わせは犯罪だろ! ときに公正取引委員会の方々、ここをご覧になってますか?
ビートルズのリマスター問題については、数年前に私もここに書いたことがあり(肩書きみたら助手時代だった、懐かしいな…)、そのときは「AppleiTunes Music Storeで発売されるかも知れない」などと、今から思うと飛んだガセネタ(を掴まされた)としか思えないような予言をしているのですが、まさかモノラルとステレオのダブル発売で来るとは、しかも前者は「初回生産限定」(しかもこっそり増産)で、しかも昭和価格で来るとは…。高度資本主義の現実は一音楽学者の予想をはるかにこえていました。いやー、ホント勉強になりましたわ。アドルノ教授であればここで何と言っただろう、「かぶと虫(Beetles)[ママ]の新リマスターではステレオ以上にモノラルの一枚岩的な音像の方に管理社会のフェティシズムが物象化されている」とでも言っただろうか、と考えてしまう次第であります。
まあ、この憤りをおさめ、今回の買い物の「元を取る」ためには、どうにかして原稿(研究)のネタ(ダシ)として使わないといかんな。明らかに無理そうだが。
今晩はこれから美学会用の原稿(まだ全然終わってない)のカントの部分の続きを少し書いて、できるだけ早めに寝ます。明日はランチミーティングから研究会と続いて夜まで休み無しでございます。
[2009.10.5追記]「モノ・ボックス」、Amazonで普通に「在庫あり。」でやんの。もう少し安くなってから買えば良かったかな。と、まだチェックしてる往生際の悪さ。