模範囚の朝は早い

3月11日(日)
昨日寝過ぎたので、朝五時に起きてしまった。どうやら風邪やインフルエンザではなさそう。せっかくなので新しい仕事をしようと思い、締切は先だが、某オケの定期公演の曲目解説を書くことに。ぎりぎりまで待ってもらい結局お断りするパターンがこの頃多かったので、今回は時間がとれて良かった。お題はブラームス。やっぱり面白いね、この人は。奥が深いというか、謎が多すぎる。研究が少ないというか一次史料が少ないんだろうな。一九世紀後半の人とは思えん。買った後ずっと本棚に突っ込んで読んでなかったウォルター・フリッシュ著、天粼浩二訳『ブラームス 4つの交響曲』がすごくいい本ということを発見。もっと若い頃に読んでたら、絶対ブラームス研究者になっていたなあと思うくらい楽しい本(それはそうとAmazonマーケットプレイスのこの価格、どういうことですか?)。夕方、娘の希望で近くの公園に遊びに行く。この公園ですべり台ですべるところをずっと前から父親に見せたかったようである。すぐ近くなのだが、そういえば三人で来たことはなかった。公園の遊具も私の時代からは一変していて、原色を使ったカラフルで、表面はラバー加工。ただ別の一角には昔の遊具がちゃんと残っていて、握った後手を舐めると鉄の味がする鉄棒も健在。しかし誰もそれで遊ばない。よく考えたら鉄棒は遊具なのか? 孤独にあれに立ち向かう修行僧(あるいは模範囚)のような子供は今時いるのか?。あと、鉄格子みたいなジャングルジムは最近ではどこでもみかけないなあ。早起きのおかげで、原稿は晩には完成しました。こういうの久しぶりで嬉しい。

3月12日(月)
昨日の続きで、異常に早く起きてしまう。今日大変ハードな日になるのだから、もう少し寝なくてはまずいのに、お目々ぱっちり。この時点で、今週のテーマは「模範囚」に決定。さっそくアタマを切り替える(イメージは中井貴一扮するミズシマ上等兵だ)。午前中、所用で家族で外出。その後私は仕事に。すでに狂ってる私が言うのもなんだが、今日は本当に狂いそうになるくらい忙しかった。年末の会計処理の山場に、学会誌の校正作業の山場が加わり、間違いなく三月で忙しい日のベスト3には入るはず。ミズシマは早くオウチに帰りたいのでアリマス。そういえば、高田里惠子の『ビルマの竪琴』読解(『文学部をめぐる病』)は昨年読んだもっとも面白いものの一つだったな。

3月13日(火)
相方のたっての希望で、秋葉原肉の万世にランチに出かける。目的は一つ、焼き肉。相方と娘は午前中リトミックに行った後だが、模範囚は寝起きですぐの焼き肉だ。天気がよくおでかけ日和。万世五階からの眺めも最高。ここの焼き肉屋には、窓に向かったお一人様席があり(隣が気にならないくらいに、窓際カウンターはゆるやかにカーブを描いている)昼から一人で外見ながら一人用の鉄板網で肉焼いてるおっさんが数人。これ以上ない贅沢な孤独である。今度は一人で来てみようか。カツサンドも自宅用に買いました。そして秋葉原に行って電気屋などに入らず、ただランチを食べて帰るというのも、またよし。その後山手線で池袋にまわり、東武百貨店に不要な食器を持って行った後(食器のリサイクルをやってる都内でも数少ない店。もっと宣伝していいのに、あまり知られてない)、ジュンク堂書店にいく。今日は絵本コーナーと赤瀬川書店を中心に攻める。うまい具合に娘がベビーカーで寝てくれたので、ラッキーと、ケーキを食べにいく。こういう機会でもないと自由にお茶もできないのだ。この年になると必ず親と同じものを食べさせろというし。西口にあるニューズデリに初めて入ったのだが、案外悪くなかったです(お代わり自由のコーヒーは×だけど、店の作りは広々していて、ケーキもおいしいです)。

3月14日(水)
昨日はそんなにはやく寝たわけではないのだが、五時に起きてしまう。二度寝できない。おかしい。どうやら先週末体調を崩してたくさん寝た日から、リズムが狂って、真の朝型人間になってしまったようだ。いいぞその調子だ、模範囚。しょうがないから起きて、コーヒーを飲みながら、朝のお勤め気分で、たまってた仕事をやる。そのうちの一つが、RILM(音楽文献目録)国際版の要旨提出。依頼が今年も来た。既発表論文の英文要旨作成。もうめんどくさくて永遠に放置したい案件だが、私ある時点から、この手の作業の学術的意義とか考えないことにしました。出せば良いんですよ。別に永遠に誰も読まなくてもいいんですよ、図書館に死蔵されるデータでもいいですよ。だって、世界中の音楽関連文献の要旨集を毎年発行してる人達がいて(本部はニューヨーク)、そのために日本の国内に小委員会があって雑誌や本をチェックして毎年要旨の依頼を出してる人達がいて、しかもこれらの人達はみんなほとんど本業のサイドワークで携わっているボランティアなわけで、そう考えたらこちらも一時間かそこら時間を捧げなくてはチャリティーの精神にもとりますよ。模範囚失格です。そういう倫理的モチヴェーションのみに支えられ、今年も書いて提出。昼のお勤めに出かける前に一仕事終わすと、ホント気分がよかですわ。研究室は相変わらず、年度末で大わらわ。このまま四月に突入するかと思うと身が持たんわ。三月と四月のあいだにナントカ休みを設けてくれんかね。昔安部譲二原作の映画でみた塀の中の生活にも、たしかそうした休日があったはずですよ! あっ、でも別に野球大会はしたくないんで。

3月15日(木)
朝方週間は三日坊主をわずかに上回ったところで終了。明け方布団に入った時点ですでにアウトなのだが、起きたら暗かったす。模範囚らしくありません。うちは狭いから、こんな調子で一日寝てると、布団も上げられないし、子供が走り回れる部屋が一つ減って可哀想なんだよね。気をつかわず寝たいだけ寝放題、という点に関しては、一人暮らし時代に戻りたいです。じゃあ戻りますか、と尋ねられれば、とりあえずノーですが。

3月16日(金)
本郷。神保町。そしてまた本郷。夕方から今年度最後の助手会。今回は私と社会学の宮本さんが幹事をやったのですが、今年度で一番くらいの大盛況でした。事務方や図書館関係者も含めて、おそらくみなさんストレスがたまりにたまっている時期なのでしょう(笑)。また、東文研の助手の山内さん(韓国研究)も私がお誘いして飛び入り参加。本郷の助手で音楽研究をしている人が同時期にこれだけ揃うのも面白い。音楽研究はいまが旬と言うことなのか、あるいはその先のポストがなくたまってるだけなのか。まあそれも含めて何かのご縁と言うことで、今日は楽しく飲みましょう(=思考停止)。で、深夜まで安酒をかわしながら、そしてときおり看守の差し入れ(教授会のおこぼれ)に預かりながら、ダーティーなホンネトークです。学科によっては次期助教の新顔もみえており、それで人数がふくらんだ訳ですが、そういえば昨年私もこの場に来たよなあ、一年経ったんだなあ、と感慨しきり。無事にこの春に出所する同房仲間もたくさんおりまして、しかも恩赦等で刑期満了を待たずして出ることになった者もおりまして、私も模範囚としての生活を一日でも早く終わらせたいものだとひとりごつのでした。幹事ということで珍しく気を利かせて、西片のマミーズのアップルパイを差し入れたら好評でよかった。所内での株を確実にあげた一日でした。

3月17日(土)
昨晩から娘が咳をし出したので、朝イチで小児科に連れて行く。この時期の病院は空いているときを狙って行かないと逆に風邪もらうから要注意ですね。昼から本郷。こんなに天気がよいのに会議ですよ。今日辺り、ホワイトデーとか何とかいって、絶対みんなイイコトしてますよ。まだ寒いよねとかいって。きィー! そう考えると、最高に生産性が高くなくては元が取れない(最低でも日朝平壌宣言くらいの)はずの会議です。会議の後、金魚坂でお茶。本郷界隈では有名なこの店ですが、そういえば入るのは初めて。コーヒーは種類は少ないけど、なかなか美味しかった。金魚の釣り堀があるので、家族で来てもけっこう遊べるかなと思いました。常日頃から鯉を食してる赤羽の人間に言わせれば、金魚上等、ということになるわけですが、残念ながらというか当然ながらというか、金魚料理はないみたいです。そんなわけで駒場音楽学会例会は行けずにすみませんでした。>関係各位。