オトコのオンガク

 このところ狂ったようにローリング・ストーンズばかりを聞いている。十数年前に放擲したCDコレクションの穴を、狂ったようにAmazon等で埋めている。いやー、高校生の時分には夢みたいだった大人買いですわ。現行のものはうっかりするとCCCDだったりするから、型番にも細心の注意を。あと紙ジャケとか邪魔なだけなので、それも避ける。普通に外して捨てられるプラスティックのケースでよろし。つーか、このバンドは版権移動しすぎだし、エディション間の違いが発生しすぎ、何の言及もなしに別テイクいれすぎ。最近のストーンズCDガイドブック等はほとんど研究文献の姿を呈している模様。うっかりするとこちらも研究者の血が騒ぐので、あまり深入りしないように自制、自制。
 で、久しぶりに本棚からストーンズ関係の本などを手にとってめくってみると、一気に高校生の自分と今の自分が直結。そういえば、1990年の東京ドームへの初来日以前と以後で、私の人生は二分されていたはずであった。そんなこともすっかり忘れてました。当時のレコード・コレクター誌等を見ると、デザインとか広告とか、自分が同時代を生きていたと思えない(思いたくない)ようなイッツ・アナザーワールド。CD発売後10年程たつとはいえ、ロック・ファンの世界はまだまだ質量ともにオーセンティックなメディアはLPだった。ちょっとレアな曲を聴こうと思ったら、CDではお話にならなかった(CD以前の過去のデータ蓄積が圧倒的だっただけだが)。原宿・渋谷辺りにある中古(廃盤)レコ屋が同人誌とかカタログとか作って、音楽文化の中心。でも高校生には怖くて入れず(当時は背伸びして新規参入する若者に過度にプレッシャーをかける傾向があった気がする。今のオトナは若者に対してウェルカムすぎ)。タワレコなどもまだ存在せず。そんなこともすっかり忘れてました。
 ストーンズ関連でいろいろ調べていたら、「ビル・ワイマンが『ジャンピング・ジャック・フラッシュ』のリフを作ったのは俺と主張」とか「ヘルズ・エンジェルズがディズニーを商標権侵害で訴訟中」といった記事も発見。何をやってるんだか、どいつもこいつも。
 まあストーンズは大体、部屋で仕事している時に一人で聞いてるのだが、これはどうしても相方にオススメできない。私も相方も音楽のストライクゾーンはだいぶ広めで、互いにほとんどの音楽は共有・享楽可能なのだが、ストーンズだけは無理だろう。というより、こちらも初めから分かってもらおうとは思わない。ビートルズと比べて(この比較がすでに相当不利だが)曲もよくないし、歌と演奏も下手なのを認めた上で、どうしてそれにも関わらず「すごい」のかを、黒人音楽の伝統とかR&Bとかを持ち出して一生懸命説明するのだが、どれも空回り。その上、ストーンズだけはどうしてもよさが分からない、あれはきっと「オトコのオンガク」なのよとバッサリ──De gustibus non est disputandum。たしかに『アンダー・マイ・サム』とか『ブラウン・シュガー』とか『ハーレム・シャッフル』とか、オトコのオンガク以外の何物でもないよな。まあそう言われたらそれでおしまいなので、こちらもあきらめる。考えてみれば、カップルでストーンズファンとか逆に格好悪い気もするので(お揃いのTシャツで、どちらかがfatという勝手なステレオタイプ化あり)、それでいいのかも。あとはそのうち、相方には隠れて、こっそり娘に聞かせてみるか。この世代(2004年生まれ)でストーンズを嗜んでいる女性なんて、めちゃくちゃ素敵で文化資本高めだと個人的には思うのだが(逆だったりして)。そして、ストーンズがあと十年頑張ってくれれば、娘と一緒にライブを見に行けるのだが。
 こうして人は気づかぬうちに中年になっていくのであった。