愚か者の涙

『ベガーズ・バンケット』(デッカ=ポリドール、1995年、POCD-1923)
『ベガーズ・バンケット』(SACD/CDハイブリッド版、abkco=ユニヴァーサル、2002年、UIGY-7015)
以上の二枚のアルバムについてだが、2002年版はピッチが少し上がっている。何でも、マスターテープのスピードを正しく修正した結果だそうだ。これも広い意味でのリマスターに入るのだろうが、問題はどうやって、それが「正しい」スピードだと判断できたかだ。テープの再生スピードというのは、テンポ・ルバートと同様に、客観的に保存=記述できない音楽的パラメータであるはずなのに。謎だ。多分これまでマスターにしたことのない新たなマスターテープを使用しただけだと思うのだが。というのも、八曲目「Stray Cat Blues」では以前にはなかったヨレがあるからだ。
2002年版のリマスターの方が(SACD環境はないので、ただのCDとして聴いても)圧倒的に造形が細かく、彫りが深い。とくに私はタイムドメインのモニターを使っているから、最初の一秒でそれが分かる。しかし2ちゃんとかを見ると(2ちゃんというもの自体、何ヶ月かぶりに見た)、ピッチについては違和感がある人が多いようだ。当然だ。すべてのリマスタリングは結局、趣味の問題に還元できる、といったらそれまでだが、マスター・テープの速度にまでオーセンティシティの基準を置くのは、やめて欲しい。これではファンは新旧いずれの盤も持っていなくてはならないではないか。いやそれどころか、今後も永遠にリマスターを買い足さなくてはならないではないか。そうかその手があったか! これはあれだ、ベンチャーズの来日公演よりもひどい、日本のロック・ファンを狙った商業的謀略に違いない。愚かな、そして可哀想な日本のファンである。私のことなわけだが。