モニタースピーカーなるものを初めて購入

aesthetica2006-05-14

スピーカーとか音響出力装置にこだわる人を、自分は今まで少し苦手にしていた。というより、余計なウンチクをたれる人種として、正直に言って、ちょっと敬遠すらしていた。だがそういう思いこみが一気に氷解するような経験を先日した。
種子田郷という若手の電子音楽作曲家がいるのをご存知だろうか。 project suaraというグループを主軸に活動しており、ダンスや映像などのアーチストとコラボレーションを数多くしている人だ。ひょんなことから自分と御近所であることが判明し、先日仕事場兼ご自宅にお邪魔させていただいた。行ってみたら、よく行く散歩コースを少し外れた辺りで、うちから歩いて十分ちょっとのところだ。
作品を幾つか聴かせていただいたが、どれも興味深い。音が空気であるということが肌で分かるものばかり。音の塊がそのままマッスとしてこちらにやってくる感じなのだ。音というより空気彫刻といった体感だ。PowerBookの上で彼がポーンと音を「投げる」(印象深かった彼の言い方だ)と、そのままリアルタイムに、それがポーンと「くる」のだ。
また彼が周波数帯を少しいじることで、地震が起きたように部屋がガタガタ振動し始める。彼はこれと同じようなことを横浜美術館などでもやっているらしい。若者には大受けとのこと。しかし普通によくやられる低音をガンガン電子増幅して空気感を出す方法が、こちらの感覚を鈍感に麻痺させるのに対して、彼が目指している空気感は、それとはまったく異質の、繊細で造形的な空気感だ。音の立体が目で見えるようなのだ。
そんな種子田さんは当然、出力装置に大いにこだわる。彼はタグチというスピーカーの会社に特別に依嘱した出力装置を使用しており、上演の際にもわざわざ会場にそのセットを一式持ち込んでやっているそうだ。また最初ちょっと戸惑ったのは、私などが普通にスピーカーという機械を、その業界では「モニター」と呼ぶことだ。自分が作り出した音を、余計なエフェクトやアンプリファイなしにそのまま素で確認する、という意味での「モニター」だ。種子田さんも最初はヘッドホンで聴きながら作っていたそうだが、まともな音作りをしようと思ったら、結果がちゃんと確認できるモニターがないと駄目だそうだ。
折しもその日は、私が自分の部屋の机を買った日で、次は「スピーカー」を思っていたところだったので、種子田さんが日常的に机上で使っている「モニター」を紹介してもらいました。奈良の音響エンジニアが作っている「タイムドメインミニ」という製品です。Amazonで15,000円くらい。無指向性だから、部屋のどこで聴いても、近くても遠くても、同じバランスで届きます。
Amazonの評価を見ると「ロック等は迫力不足な気がします。(特に低音) 」などとあるが、当たり前の話で、要するにごまかしや演出が一切ない出力装置なのだ。つまり良くも悪くもインプット(録音状態)がそのまま忠実に出力されるのだ。そうじゃないと「モニター」にならない。弦楽器などは、本当に目の前で弾いている弦に触れるのではと錯覚するような精度。また口や舌の動きまで触れるように分かるので、語学学習にも向いているだろう。
逆に、中途半端な音作りをしていると、とてもこのスピーカーでは聴くにたえない。種子田さんによれば、とくに現代の電子音楽系に多いらしいのだが、自信満々に持ってきた自作音源を、彼の家でモニターを通して鳴らすことで、手抜きが露呈してしまい大いに恥をかく、というケースが多々あるそう。何ともこわい機械である。というより音作りにはモニターは必須、というだけの話なのだが。
さっそく机に置いてみたのだが、大きさもちょうど良く、デザインもけっこう気に入った。普通のスピーカーと違って、夜中に比較的大音量で流しても、不思議と他の部屋に余計な振動がほとんど伝わらないのも、別の部屋に子供が寝ている今の私の生活では好都合(おそらくはタイムドメイン理論の一つの効果なのだろう)。最近、家で机に座ってる時間がガクッと減ったので、せめてそのときくらいは気持ちよい音環境を、と思って少し贅沢しちゃいました。
というわけで、色々な意味で、なかなか実りのある御近所訪問でした。今後ともお付き合いができたら良いですね。<東京の夏>音楽祭にも出演されるそうなので、ぜひ見に行きたいと思います。

・種子田さんのブログ
http://blog.drecom.jp/suara/archive/208
TIMEDOMAIN mini
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0002Y3MW2/ref=pd_sim_dp_1/250-0476314-8113005