そういえば私は音楽学者だった

ここ数日、珍しくコンサートの曲目解説などを書いてました。今日校正を送って一段落。
楽曲はどれも小さなものだが、数が多い上に、どれもオペラの一曲なので、結局そのオペラ全体を一通り知らねばならないため、かなり難儀した(しかも締切が早い)。アリア一曲といえども馬鹿にできない。なまじヴァーグナーの影響等でライトモティーフとかを使われると、こういうとき非常に迷惑です(笑)。しかも依頼されたのは全部イタリア・オペラ。この機会に勉強して守備範囲を拡げてください、と言わんばかりである。編集担当の方の愛情(or過大評価or誤解orイジメ)がひしひしと伝わってくるようです。本当に感謝しておりますよ。
それゆえに幾つかの未知の曲については学生のレポートよろしく、まったく一から調べることになった。まず音友の『オペラ名曲百科』などで作品を確認し、できるだけオーセンティックな楽譜(および歌詞の翻訳)を探しだし、楽譜が見つからないものは主題集のようなもので代用し、音源を探す、という基礎的作業を一段階ずつ。思いのほか時間がかかり、結局出講日だけでは終わらず、再度、音大の図書館に足を運ぶことに。
で、その後はしばらく家に閉じこもり、借りてきたCDを聞き、楽譜を読み、文献を確認し、少し筆を進めては、またCDを聞き、楽譜を眺める。三日くらい延々とその繰り返し。何か議論を展開せよと言われれば、シュールレアリズムの自動筆記ばりに筆が動く私だが、作品のディスクリプションとなると話が別で、思うように進まずにイライラする。必要とされる知識や語彙は共通しているのに、脳味噌の使用部位が決定的に違うようです。想定する読者層も違うし。日々こうした作業を難なくこなしている方々が私も周りにも多数おられますが、本当に尊敬に値します。途中から開き直って、久々に音楽学者らしい仕事に没頭できて楽しいな、と思うことにしました(実際、仕事と思われなければ作業自体は楽しいのですが)。おそらく慣れている方々はもっと「自然」に書けるんだろうな、と推察します。
また、以前(かなり昔ですが)同じオーケストラのために楽曲解説を書いたときは、意識して没個性的に書いたら、それがかえって不評だったことを思いだしたので(結構トラウマ)今回は私の個性を思いっきり出してやりました。たかが解説と言わず、目を通された方はぜひご意見ご感想を下さい(Web版が公開されたらここに追記します)。まだまだ初心者ですし、今後の参考にさせて頂きますので。
もちろん肝心のコンサートもぜひ。12月7日および8日サントリーホール、10日横浜みなとみらいホールです。でも今確認したらサントリーは残席僅少だった…。私も行きたいのですけど。
公式サイトは http://www.nhkso.or.jp/schedule/regular_2005_12.shtml#pro_B
曲目が全部書いてあるのは http://www.geocities.jp/ikematsu_fansite/concert12.html

そして今回、改めて実感したのですが、演奏会で取り上げられるくらいの主要なオペラ歌曲はほとんど、何らかのかたちで日本語訳が存在しています。だがそれを一覧できるデータベースがないのが困りものです。音友系のものは頻繁に「リサイクル」されているので問題ないでしょうが、それ以外のもの(特にCDの解説、語学系の書物など)は大半が眠った状態にある。戦前の文献や古いレコードの解説にも結構貴重な翻訳の蓄積があります。文学(詩)作品の分野でそうした翻訳データベースがあるなら、そのシステムを流用すればよいでしょう。そうすれば演奏会やCD化の度ごとに必死こいて新訳を作る必要はなくなるはず。まあその分、音楽学者や翻訳家の仕事は減るが、そうした合理化は時代の流れなので、また別の得意分野を開拓すればいいでしょう。だがこうした合理化が行き着いた先に、音楽学者の仕事として何が残るのかは謎ですが。楽曲分析などもある程度はデジタル処理でできる気がするし。ソナタとソナティネの違いのような微細な(=どうでもいい)美的峻別くらいしか人間に残された余地はない気もします。

さて次は、週末の表象文化論学会の原稿をやらないと。明日は多摩美の帰り道なので、久しぶりに桐朋音楽史研究会(http://www004.upp.so-net.ne.jp/h-nonaka/MIS/)に顔を出す予定にしているのですが、ちょっと無理かも。

(2005.11.28)
WEB版がアップされました。
http://www.nhkso.or.jp/schedule/regular_2005_12.shtml(12月の定期公演案内)
http://www.nhkso.or.jp/schedule/pdf/pamph05dec.pdf(PDFファイルへの直接リンク)