LP録音のための作曲とは?

美大でやってる講義の一つは、後期の題目が音楽メディアの歴史である。
エディソンのフォノグラフとベルリナーのグラモフォンを「大人の科学」の模型で実際に作り、みんなで歌って、録音・再生してみた。盤の素材をいろいろ変えることで、音質や耐久度が変わり、構造を知ってる人が試しても結構ためになる。また不要なCDロムをグラモフォン用に流用して録音すれば、あなたも今すぐにでも「CDデビュー」ができる。

で、今日は録音におけるSPフォームからLPフォームの移行期の話をしたのだが、例としてあげたのがマイルス・デイヴィス。1949/50年のキャピトル盤『クールの誕生』(SP録音)と1951年のプレスティッジ盤『ディグ』(LP録音)を比べる。尺の違いがソロの傾向にどう反映しているのかを考える。キャピトル盤のチューンも実はラジオ用のテープ録音が残っていて、それを聞くとLP録音以降のものとそう変わらないんだよ、器に合わせていただけなんだよ、というオチも付く。

でもこのジャズの例は「昔取った杵柄」で私がたまたま知っていただけ。とはいえ1950年代前後はバップからハード・バップへの移行期にあたり、それを録音フォームの変化に並行した現象と捉えると、とても理解しやすい。様式史とメディア史の相互干渉を示す例としては、悪くない。
でも、SP録音からLP録音への移行に伴う音楽的内実の変容を考えるとき、クラシックでは何をもってくればよいのだろうか? あるいは他の研究者は一般にどういう例を出すものなのか? もちろん、過去の長い曲がLP盤になってようやくレコード化されました、というのではなく、LP録音が作品の形態を規定する例でなくてはならない。従ってアドルノが論じているオペラの例では、この場合は駄目だ。
ストラヴィンスキーはSP盤の尺に合わせた作曲をしているが、LPのための曲を書いたという話は知らない。意外に映画音楽とかかもしれない。でもあれは大分昔からもっぱらテープ録音か。それともマクロな視点でみても、やはり私が取り上げたジャズの事例が典型的なのだろうか。

そんなわけで、いまいちすっきりしない感が残った。
LP録音を前提にした作品(とくに記譜されたもの)の事例を知っている方は、教えてください。