Home(less)sickness?

数日間、東京に戻ってきました。
着いた日の晩、どうしても我慢できなくなり、久しぶりに元の地元である赤羽のまるます家に一人で赴きました。陽気が良かったこともあり、平日なのにたいそう混んでました。途中、ふと思い付いてというか魔が差して、父親(やはりこの店の常連)に電話してみたら「今ちょうど王子にいてあと十分位で行ける」との返事で、すぐに合流。二人でたらふく食べました。鯰とか鯉とかの川魚、京都に来てから食べてないし、多分出してるお店がないでしょうね。停年延長してるので給料が往時の何割減、みたいな話を聞かされたので、しょうがないから私の奢り。こういうときに、自分が歳を取った実感がありますね。
二人でこうしてサシで呑むのも久しぶりのせいか、会話もぎこちない。孫や嫁さん抜きで会うと、親子とはいえ(親子だから?)こんなにも盛りあがる話題がないのかと判明。店の社長の奥さんに「あーら、久しぶりねえ、しかも親子で」と言われ、周囲から見ても間抜けに映っているに違いない二人組。うかつでした。今度から、いくら他に呼び出せる相手がいない場合でも、父親に電話するのは自制しようと決意しました(後からよく考えれば、電話する相手が一人もいないはずはないのだし)。そもそも、一人で呑んで帰ろうと思ってたのに、本当に魔が差したわ。
弟夫婦が近く中目黒(場所に関してはオレ猛反対=文京区・北区辺りを激しく推奨)に家を新築(メゾネットの分譲みたいなやつ)することもあり、何となく家のことが話題に。
「京都の小学校の学区って訳が分からなくてさ。オレ、その関係でもしかしたら近々引っ越すかも知れない。買うことも視野に入れて。」
「私の場合は、自分の家に魂を入れすぎたなあ。だから逆に簡単に引っ越せなくなってしまった。」
「それ後悔してるの? 満足してるのかとずっと思ってたけど。」
「ちょっと後悔してるんだ。」
こんな基本的価値観すら共有していない、かみ合わない会話の親子は、別に他人と呼ばれてもいいですよね。よく聞くと結局、メンテナンスが意外に大変でローン終わっても資産価値がかなり目減りするから、家(マンションは言わずもがな一戸建ても)は買わない方がいいというアドヴァイス。一戸建ての場合でも、新築で作り込む(自分はそれをやって後悔)のではなく、建て売りでそのまま住んだ方が愛着がこもらず吉、とのこと。自分が長年子供達に植え付けてきた(とこちらが思っている)価値観を自ら全否定。息子とその家族が置かれている状況に対する理解と配慮一切無し。超低金利時代とかそういう視点も一切無し。ローンで住宅は絶対買うなとは勝間和代のオレが唯一読んだ本も書いてたが、それとの影響関係もおそらく無し。単に、人生の黄昏を迎えつつある者の身軽さへの憧れ(と私は理解)。その同じ口が、ローン組んでようやく新築物件を買ったばかりの息子(弟)に何を言うんだか、怖いわ。こんな展開になるんだったら、親父を飛び越して、隣(ハスミ先生を土方風にしたような御尊顔)かその隣(川村たかし議員にクリソツのイケメン)のセンパイ(この手の飲み屋でのもっとも無難な二人称)にお尋ねした方が絶対タメになる経験豊富な話が聞けたに違いありません。しかも「じゃあ、今日はこれで」とさっさと話を切り上げて、一人で別の店に行って飲み直すことができないのも、また親子の因果です。
途中、近くに座った若い常連客(初対面)から「このお店が載ってるんですよ」とが回ってきて、「2008年10月出版? オレがちょっと東京を留守にしてる隙に、なぎらの奴、またしでかしやがったな! キーッ!」と憤り、平時であれば、なぎらの下町論に対するポストコロニアル的視点からの批判的言論を延々と開陳する場面および時間帯だったのですが、親子で雁首並べてる手前、自粛。逆に日和っちゃって、まるます家の女将さん連中が表紙を飾っている件について、ありきたりな御世辞を言ってしまう始末。それを受けて親父は確か「篤姫がどうこう」とか大声で言ってたしな。トホホ…もう死にたいくらい恥ずかしい。あっ、しかもうっかりここでなぎらの本の宣伝をしちゃってるし! いや、なぎらさん自身は(どうでも)いいのよ。趣味とか性癖とか私も結構近いし。実際、本も結構持ってますし。彼の吐く下町ディスクールの伝えられ方・売られ方が問題なのよね。要は広い意味でのメディアの問題。それを自分で知っててやってますか?と一度問うてみたい。ロハスとかと一緒じゃんか、と。なぎらの本を買って読むくらいなら、その金と時間で、最低、この本この本を読めと、世の教養人にはお勧めしたい。しかも今回の本のタイトルだが、「絶滅食堂」はないだろう。コンスタティヴであろうがパフォーマティヴであろうが、それはないだろう。この本に載ったら必ず数年以内に「絶滅」するってオチは、やめてよ。京都賞芸術部門の受賞者じゃないんだから。最終的に、酔いの回った私の脳味噌・言説のなかでは、中目黒問題となぎら問題が完全に一体化してしまうのでした。どっちも「な」だしな。
色んな意味で、もう帰る家がないわと、今回思わぬかたちで実感。それと、十分歳を取ったとはいえ、まだまだ若輩者の私、エディプス・コンプレックスはもうしばらく大事にしたいのですが、これももうダメ、有効期限切れでしょうか。いやまあ、一応親孝行はしてる(つもり)ですけどね。
それ以外は、仕事も会議も社交も買い物も全部きっちりやって、無事に京都の我が家に帰ってきましたよ。次回仕事で東京に行くのは三月半ばの予定です。それまでにアレとアレを仕上げないとね。